先日、あるギャラリーで小さな酒蔵の杜氏さんに出遭った。三十路そこそこの若い杜氏だ。今度出す新酒(晩秋~初冬に販売される)のネーミングと、ラベルをどうすれば良いか酒好きの店主に相談しに来たところだった。その杜氏さんによれば、今の杜氏は酒造りだけ出来ても駄目だそうだ。小さな酒蔵は、社長も杜氏も、営業マンであり宣伝マンである。専門外の仕事をこなさなければ、酒蔵が成り立たないのだ。その上、流通機構の圧縮によって、酒問屋の機能が弱まっている。従来のように、問屋へ商品を流すだけでは、お酒は売れない。杜氏自ら小売店や、料理屋へ出向き、気に入ってもらわないと販路を確保できないのである。ファンを作る事はそれだけ大変な事なのだ。
さて、酒蔵には江戸の昔から伝わる“独自の清酒(銘柄)”がある。これは言うなれば、屋号と匹敵するような銘柄のお酒。この先、何十年、何百年と守り続けなければいけないものです。しかし一方では、多くの人に喜んでもらう為、進歩的なお酒を日夜研究しています。それは、微炭酸の日本酒であったり、果物の香りを生かしたお酒であったり、何年も寝かした古酒であったり、新しいお酒の楽しみ方を提案しています。そんな中でも“にごり酒”は、一番面白いお酒。
普通、清酒は米が原料です。麹菌で米を発酵させ、水を加え“もろみ”を作ります。73℃程の高温で滅菌し、目の細かい網で“もろみ”を何度も漉した(残った粕が甘酒の材料となる酒粕)ものが、無色透明の清酒となります。このもろみを目の荒い網で漉したのが、白く濁った“にごり酒”です。口に米粒が残るほど粗いお酒です。別名どぶろく。この“にごり酒”を高温滅菌しないので瓶へ移します。すると、瓶の中で麹菌が発酵し続け、1ヶ月も冷蔵庫で貯蔵すれば、酸味が爽やかな“にごり酒”となります。それはまるでヨーグルトのような味わいです。酒を浴びるほど飲んで酔っ払うのもいいですが、こうした麹菌の生きたお酒と戯れて過ごす秋の夜長も良いのでは?。そこの左党のみなさま…。
|