アメリカ合衆国初代大統領として知られるジョージ・ワシントンにまつわる話で最も有名なものは、「桜の木の話」ではないでしょうか。ジョージが6歳のとき、父親が大事にしていた桜の木の枝を斧で折ってしまい、それを正直に父親に話したところ、怒られるどころか逆に褒められたというお話です。「嘘をついてはいけない」ということを子供たちに教えるためによく使われる話ですが、これをもじった有名なジョークがあります。
『こちらにあるのがあのジョージ・ワシントンの使った斧です。皆さんご存知ですよね。彼が子供時分に桜の木をちょん切ったアレです。・・・まぁ何年か前に刃の部分が壊れたので取り替えて、その後に柄の部分も古くなったので新しいものを取り付けたんですけどね。』―――じゃあ全く別物やんけ!という内容。
これはただの笑い話ですが、実は私たち自身についても言えます。人の体の細胞は、長く見積もっても平均寿命が10年以下。細胞は常に代謝を繰り返すため、ある時点で人体を構成していた細胞が完全に入れ替わる日が必ず来ます。人の体を細胞単位で見た場合、1~6年という周期で全くの「別物」になっていることになります。しかし人には6年前の自分とは完全に生まれ変わったという認識はないですね。全く異なる細胞で構成されていたとしても、人の同一性は途切れることがありません。(この同一性が途切れてしまった場合が多重人格障害、いわゆるジキルとハイドです)
さて、先ほどのジョークには続きがありまして、「まったく別物じゃないか!」という突っ込みに対して語り手は『でもジョージの魂は受け継がれていますよ』と返すのです。人間の同一性が失われないのはまさにこれ。でもすべての細胞がそんなに短期間で入れ替わるなら、多少の失敗をリセットして、人生新たなスタートを切るのもそれほど難しいことじゃないのかも?(N)
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